最も成功したプロゲーマーとして有名な Johnathan "Fatal1ty" Wendel 氏は年収 1 億円を稼いだというエピソードで知られています。
これまで特に疑いもせずこの情報を信じていたのですが、本当にそうなのかなと思ったので調べてみました。
疑問を感じた理由
日本の雑誌、テレビ、講演等でプロゲーマーや e-Sports が紹介される際に、「年収 1 億円ほど稼ぐプレーヤーもいる(Fatal1ty 氏のこと)」というような事例紹介が行なわれることが多いです。 このデータはかなり前から使われている印象があります。
おそらく 2005 年くらいの Fatal1ty 氏の活動実績をさしていると思われます。 8年も前のデータがいまだに現在進行形で存在するみたいに紹介されているのはどうなんだろうと思ったところからそもそもソースはどこで実際どうなのかと思った次第です。
Fatal1ty 氏の収入を日本のサイトで検索すると以下のような感じで紹介されています。
紹介事例
Fatal1Ty とは (フェイタリティーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科 Fatal1Ty とは、年 1 億程度稼ぐプロの FPS プレイヤーである。
エレクトロニック・スポーツ Wikipedia プロチームやプロリーグも多数あり、中には年収 1 億円を超えるプロ・ゲーマーも存在する。
ファーストパーソン・シューティングゲーム | Wikipedia 特に Johnathan "Fatal1ty" Wendel 氏は収入が 1 億円を超え、世界で一番有名なプロゲーマーとも言われている。
Fatal1ty 1億 | Negitaku.org 僕もこれまでに疑いもせず紹介された情報を鵜呑みにして「Fata1lty= 年収 1 億」と書いていたりしますが。
ソースを探す
海外サイトでいろいろなキーワードを組み合わせて検索してみましたけど Fata1tly が年間 100 万ドル以上稼いでいるというような記事は見つかりませんでした(探し方の問題や、ソースの記事が古くて消えている可能性もある)。
その過程で見つけた以下の記事が一番信憑性がありそう。
“Fatality” Makes Six Figure Salary Playing Games Fata1lty、ゲームで数千万円の収入を得る的なタイトル
これの元記事は AP 通信に 2005 年末頃に掲載されたものとのこと。 和訳記事が日本語版の Wired にて紹介されています。
年収 20 万ドルの 24 歳プロゲーマー ウェンデルさんは、プロとして 1 年目の 2000 年には約 11 万ドルを稼ぎ、その後も、仕事と見なせるゲームの対戦でかなりの収入を着実に稼いでいると話す。予想では、今年は賞金とライセンス料で約 20 万ドルの収入になるという。 ウェンデルさんが自宅と称している平凡な郊外の牧場を見る限り、彼が企業幹部レベルの収入を得ていることなどわからない。ウェンデルさんの生活は非常に質素だ。収入はすべて自分のビジネス活動に注ぎ込み、生活費は毎年 1 万 5000 ドル程度だ。しかもこの額には、毎月 500 ドルにも満たない家賃も含まれている。
年収 1 億円のはずが見込収入は 5 分の 1 の 20 万ドル! 話が随分と食い違っています。
Fatal1ty はどのくらいの賞金を獲得したのか
Fatal1ty 氏を紹介する Wikipedia のページに彼の獲得賞金履歴がまとめられています。
Aliens versus Predator 2 1st CPL World Championship ($40,000, Ford Focus) Doom 3 1st QuakeCon 2004 ($25,000) Painkiller 4th Electronic Sports World Cup 2004 ($10,000) 2nd CPL Summer Championships 2004 ($5,750) 4th CPL Turkey March 26, 2005 ($5,000) 6th CPL Spain May 1, 2005 ($2,500) 2nd CPL Brazil May 28, 2005 ($10,000) 2nd CPL Sweden June 18, 2005 ($10,000) 1st CPL Summer Championships 2005 ($15,000)[11] 2nd CPL UK September 4, 2005 ($10,000) 1st CPL Singapore October 16, 2005 ($15,000) 2nd CPL Italy October 22, 2005 ($10,000) 5th CPL Chile October 30, 2005 ($3,500) 1st CPL NYC World Tour Finals 2005 ($150,000) QuakeWorld 6th CPL 4-Year Anniversary Event 2001 ($1,000) Quake III Arena 3rd Frag 3 1999 ($4,000) 1st XSR Invitational 2000 ($15,000) 1st RazerCPL Tournament April 2000 ($40,000) 1st BattleTop Universal Challenge July 22, 2000 ($15,000) 1st World Cyber Games Challenge October 2000 ($25,000) 1st CPL Australia ($10,500) 3rd CPL Holland 2nd QuakeCon 2001 ($10,000) 2nd CPL Brazil Quake 4 4th WSVG Kentucky June 18, 2006 4th WSVG Intel Summer Challenge July 9, 2006 ($6,500) 9–12th QuakeCon August 5, 2006 5th WSVG London October 8, 2006 3rd Digital Life October 15, 2006 ($2,500) 5th World Cyber Games October 19, 2006 2nd WSVG Finals New York, December 10, 2006 ($10,000) 1st Championship Gaming Invitational Los Angeles, December 17, 2006 Unreal Tournament 2003 1st CPL Winter 2002 ($10,000) 3rd Electronic Sports World Cup 2003 ($3,000) from Fatal1ty - Wikipedia, the free encyclopedia
これをすべて合計すると $457,750 になります。2005 年だけ計算すると $231,000。
さきほどの記事では賞金 + ライセンス料で 2005 年に約 20 万ドルの収入見込とかかれていましたが賞金だけでそれを超えています。
自身のネームを冠したハードウェアのライセンス料がいくらかわからないですが、足しても 30 万ドルを超えて 40 万ドルには届かない程度の額でしょう。
ちなみに、2005 年頃に Counter-Strike で世界最高のスナイパーと評価されていた Danny "fRoD" Montaner 選手がチームから支払われていた月収は 1,200 ドルほど。ライバルチームから 200 ドル上乗せするから、といって引き抜き交渉されたそうです(書籍の『Game Boys』で紹介されている)。
2007~2008 年に DirecTV が主催した『Championship Gaming Series 2008』の契約選手の収入はトップレベルで年間約 $31,000 ほどでした。
ということで Fatal1ty 氏が「年収 1 億」というのはあまり信憑性がなくて「ゲームでの獲得収入総額 1 億円以上」という解釈が正しいのではないでしょうか。先に紹介した FPS の Wikipedia の表記が正しい。
おそらく、紹介する人が「年収 1 億円プレーヤーの方がわかりやすい」みたいな感じでアレした結果いつのまにか情報がねじ曲がって広まっているのではないかと思います。多分。
では、現在のプロゲーマーの獲得賞金額はいくらなのだろう?と追加で疑問がわいてきたので調べました。
2012 年におけるプロゲーマープロゲーマー/プロゲームチームの獲得賞金額 | Negitaku.org Blog
追記: これはすごい。参考になります。
@theworld 「プロゲーマーをめざす若者たち」 16:00の所で年収一億円nicovideo.jp/watch/sm138377… →テキスト起こし→7年で18回引用→他の媒体 ※2006/5/5より前には1億円に言及してるサイトが無い goo.gl/QBthk
— jamesthemesser (@jamesthemesser) June 9, 2013
@theworld ついでにミリオンダラーの言及はtime.com/time/magazine/… でしている様ですが時系列的に後だし、もちろん生涯年収の話だと思います
— jamesthemesser (@jamesthemesser) June 9, 2013